◆悠雅彦氏によるライナーノートより抜粋
この新作の焦点は何といっても、竹内直が全編でバス・クラリネットを吹いていることである。彼は周知のようにテナー・サックス奏者としてすでに確固とした地位にあると思うが、持ち替え楽器としてフルートとバス・クラリネットを吹くわが国有数のマルチ・サックス・プレイヤーでもある。
96年の初リーダー作『ライヴ・アット・バッシュ』に始まる彼の吹込歴を見れば歴然とするが、多くのアルバムで彼はテナーに加えてバス・クラリネット(バスクラ)とフルートを演奏している。参考までに、竹内のディスコグラフィーを吹込順に列挙してみる。先記『 Live at Bash !! 』に続き、98年の『ソロ・ライヴ』以降、『トーキング・トゥ・ザ・スピリッツ』、『モア・ザン・ユー・ノウ』、『トンプキンズ・スクェア・パーク・セレナーデ』、『ソロ』、『ライヴ・アット・スター・アイズ』、『ノスタルジア』、『ラプチャー』と9作品を数える。
ほとんどのアルバムでテナーを柱にバスクラとフルートを用いるが、中にはテナーとバスクラだけの作品もある。つまり、フルートは休んでもバスクラを吹かない例はほとんどない。とりわけ新世紀に入って発表したアルバムはすべてテナーとバスクラで通している。まさかフルートに見切りをつけたわけでもあるまいが、そう思いたくなるほどバスクラだけは欠かさない。
ノーツを書くときの面白さのひとつは、それが容易な日本のミュージシャンの場合でも本人にあえて確認せずに推理すること。竹内直の場合はバスクラに対する愛情や思いが一挙に活火山となって噴き出したのだろうと私は考える。ところが愛情や思いの強さとは裏腹に、表に出てきた音は”噴出”という言葉にそぐわない豊かな成熟味をたたえていたので驚いたのだ。